
那覇港 アメリカ人画家(がか)ハイネがかいたものです。(19世紀)
中国(ちゅごく)との進貢貿易(しんこうぼうえき)を中心に海外との交易(こうえき)を積極的(せっきょくてき)にすすめていた琉球王府(りゅきゅうおうふ)のなかで、久米村(くめむら)の人びとのかつやくは、さまざまな分野(ぶんや)におよんでいました。水先案内(みずさきあんない)もたいせつな仕事の一つでした。
中国語(ちゅうごくご)のじょうたつがいちじるしいマチューこと徐肇基(じょちょうき)は、日常(にちじょう)の会話(かいわ)はなに不自由なく話せるようになっていました。また、論語(ろんご)についても深(ふか)い知識(ちしき)を身につけていました。そんな徐肇基(じょちょうき)に、久米村(くめむら)の総役(そうやく)(頭(かしら)) は水先案内(みずさきあんない)を命(めい)じたのです。
水先案内(みずさきあんあい)は、交易(こうえき)でにぎわう那覇港に出入(でい)りする船を案内(あんない)する仕事です。そのためには、中国(ちゅうごく)のことばがきちんとわからなければいけないし、また港までの水路(すいろ)をじゆうぶんしっておかなければいけません。水先案内(みずさきあんあい)の役をおおせつかった徐肇基(じょちょうき)は、水路(すいろ)をしりつくすために、自分で舟をあやつり、海のようすをたんねんにしらべました。
那覇港には、船の出入(でい)りする口門(こうもん)が三つありました。一つは、北門にあって古くから薩摩航路(さつまこうろ)に使ったので倭口(わぐち)といいました。浅瀬(あさせ)がたくさんあり、水路(すいろ)をよくしっている人が案内(あんあい)をしました。二つめは、先島航路(さきしまこうろ)に使ったので宮古口(みやこぐち)といいました。三つめは、大きな唐船(とうせん)の出入門口(もんぐち)に使われたので唐船口(とうせんぐち)といいました。
船が事故(じこ)もなく安全に港に出入(でい)りできるのも、水先案内人(みずさきあんないにん)の腕(うで)しだいでした。幼(おさな)いときから舟をあやつることにはみごとなわざをもっていた徐肇基(じょちょうき)は、たちまちのうちに水先案内(みずさきあんない)の第一人者(だいいちにんしゃ)になったのです。
このような水先案内(みずさきあんない)の仕事のなかで、もっとも重い役目が、中国皇帝(ちゅうごくこうてい)(国王)の使いを乗せた船、「御冠船(おかんせん)」の水先案内(みずさきあんない)です。なにしろ、中国皇帝(ちゅうごくこうてい)の使いがのっているのですから、万が一にも事故(じこ)があっては大へんです。
王府(おうふ)にとっても冊封使一行(さっぷうしいっこう)をむかえることは、国をあげての大きな行事でした。そんな冊封使一行(さっぷうしいっこう)の船を案内(あんない)するのは、總管(そうかん)の役目です。
冊封使(さっぷうし)の一行(いっこう)が福州(ふくしゅう)(中国)を出発し、東シナ海をよこぎり、沖縄本島にむかうとちゅうでまず久米島(くめじま)によります。このとき、王府(おうふ)より派遣(はけん)された水先案内(みずさきあんない)の一行(いっこう)がむかえるのです。水先案内人(みずさきあんないにん)は慶良間(けらま)から"のろし"をあげて、冊封使一行(さっぷうしいっこう)の到着(とうちゃく)を王府(おうふ)にしらせます。"のろし"を確認(かくにん)した王府(おうふ)では、冊封使一行(さっぷうしいっこう)の出迎(でむか)えの準備(じゅんび)をすすめるのです。久米島(くめじま)でひと休みした冊封使一行(さっぷうしいっこう)を、唐船口(とうせんぐち)をとおって那覇港に案内(あんない)するのです。
徐肇基(じょちょうき)の案内(あんない)ぶりはみごとなものでした。まようことなく水路(すいろ)をきちんときめ、わずかのくるいもなく唐船口(とおせんぐち)をとおって那覇港まで案内(あんない)するのです。それもそのはずです。徐肇基(じょちょうき)は、ひそかに那覇港から慶良間(けらま)の阿嘉(あか)をとおって久米島(くめじま)までの航路(こうろ)をしらべ、しりつくしていたのです。
こうした徐肇基(じょちょうき)の働きぶりは、久米村(くめむら)の総役(そうやく)はもとより、王府(おうふ)にも認(みと)められることになりました。そして、ついに總管役(そうかんやく)を任(にん)じられることになったのです。久米村(くめむら)で、百姓(ひゃくしょう)での總管(そうかん)ははじめてでした。人びとは、北谷間切野国村(ちゃたんまぎりのぐにむら)の總管(そうかん)ということで「野國總管(のぐにそうかん)」とよぶようになりました。

那覇港の図 海外交易でにぎわいを見せています。(県立博物館蔵)


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