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43. 芋の祭祀


 琉球王府時代以降沖縄の基幹農作物といえば稲・麦・芋・サトウキビということになる。稲や麦は上納作物として祭祀儀礼の中で重視され中心的な座を占めた。芋も祭祀の中に位置づけられたがもう一つの基幹作物のサトウキビについては祭祀上は「チュクイムジュクイ」(諸作物)として他の農作物と変わらぬ程度の位置づけとなっている。その理由についての検討は紙面の関係でふれないでここでは芋についてのみ触れておきたい。

 沖縄県の芋の祭祀は沖縄島北部と宮古地域に色濃く分布し、あとは沖縄の中南部や八重山に点在する。芋の祭祀の名称としてはウンネーとかタヒネー、あるいは芋プーズ等と呼ばれている。

 芋の祭祀の場所は一般的にはそれぞれの村の御嶽で行われる。土帝君の前で行われることもある。野國總管に関していえば野國總管の墓所で行われたり、あるいはその墓に向かって遙拝する形で行われたりする。この場合、野國總管が唐(中国)から芋をもたらしたという感謝祭とされているが同時に芋の豊作祈願を兼ねるのである。芋の普及に尽くした儀間真常の墓に遙拝するという話は聞かないのでそこは面白いと思う。特に読谷村ではいつの頃からかすでに野國總管の墓に対する遙拝所が多くの村に設置されていた。

 宮古島では芋の伝来・普及に力を尽くした人を御嶽神とする芋主御嶽が複数もあって祭祀も行われている。

 芋の祭祀はノロ・司・カッテイ・区長(公民館長)等が祈願を主導し、それに村人が加わる形である。

 沖縄の農耕祭祀の稲に関わるものは稲の生長にあわせて行われた。種の播種試験的な庭種取の祭祀・種まきの時の種子取祭・稲の播種完了の祭祀のヤアラ願い・順調な生育を願う草葉の願い・実入りを願うスクマ(5月ウマチー)・収穫を感謝する豊年祭(6月ウマチー)である。その外に、害虫防除の祭等も織り込まれた。播種以前から収穫までその状況をみながら行うのである。

 では、芋の場合はどうか。沖縄では芋の植え付適期は旧暦の4月から8月までの期間である。収穫は一般的に夏植は植付後5~6ケ月後、冬植は8ケ月後の収穫である。しかし、芋の祭祀は2月・3月・4月・5月・8月・9月・10月・11月に分散している。複数回祭祀を行う村もあるが殆どは年1回の祭祀である。このことは芋の生長過程に即した祭祀ではないということを端的に示している。当然、祈願内容は豊作祈願に限定されてしまう。沖縄では本土と違いスライド式に植え付けができ、収穫できるという自然状況も影響したことと思われる。
(文・崎原恒新)