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6.野國總管から学ぶもの・進取の気象
 今回は、野國總管から学ぶものとして進取の気象について考えてみたいと思います。辞書によりますと、進取とは「今までの慣習にかかわらず、意欲的に新しいことをすること」とあり、気象とは「積極的に行動しようとする心的傾向」とあります。この意味する通り、野國總管の中国行きは正にこの進取の気象の発露そのものであり、それを体現したものであったと考えます。

 そのことを考えるに、彼がどのようにして総管職に就任したかについて推量してみたいと思います。総管職とはどういう役職名か、一般的には進貢船の事務長職相当といわれていますが、沖縄タイムス大百科事典では「進貢船の船員役名。貢船に奉安されている天妃(てんぴ)をまつり、あわせて船員の作事・水梢を総理する役であり、航海に慣れている者なら地方のものでも任用された」と記されています。総管職として、「天妃をまつる」とありますが、天妃とは中国の媽祖(まそ)信仰から起こった航海安全の守護女神のことで、航海の時、その媽祖像を船中に奉安する役目も果たしました。その他に水夫の面倒等もみました。このような役職を果たすためには、ある程度の中国語を話せると同時に、中国の風俗習慣や進貢貿易のしくみ等を熟知しなければ総管職は務まらなかっただろうと思います。1700年代以降、総管職は中国からの帰化人である久米村人の専従職となります。その点でも、地方出身者がその総管職に就く過程には計り知れない幾多のご苦労や刻苦勉励(こっくべんれい)の様子が想像されます。やはりその底には、中国に渡り世界に冠たる文明国に学ぼうという夢や目標があり、それを実現する強い意志とゆるぎない信念が兼ね備わっていたのだろうと思われます。

 歴史はくり返す。今、世の若者達が世界で活躍するために世界の共通語ともいわれる英語をマスターしようとする風潮は野國總管が中国語を学ぼうとする時代相によく似た感を受けます。若い人達が、自分の境遇・環境に固執することなく、広いバックグランドで、パイオニア精神を発揮し、いろんなことに挑戦してもらいたいものです。野國總管の進取の気象に学ぶとは、このような気概を体得し、自己の夢・目標実現化のために最大の努力を払うことだと考えます。
(文責伊波勝雄)