野國總管物語

台風の夜

 ゴオーゴオーとけもののうなるようなぶきみな音をたてる風の音、横なぐりのはげしい雨が雨戸(あまど)をたたきます。

 風にあおられたランプの灯(ひ)が消え、家の中はまっ暗です。

 「これじゃ、家ももたないぞ!」

暗やみの中で、父の声がします。台風(たいふう)です。今年もまた、台風(たいふう)がやってきたのです。穂(ほ)をつけた稲(いね)が、実(みの)った麦(むぎ)が、あわや豆も、野菜(やさい)もほぼ全滅(ぜんめつ)です。

 「ああ!今年もまたききんになってしまう。うえ死にするものがでてしまう。」

 雨まじりのはげしい風の音にふるえながら、マチュー(野國總管(のぐにそうかん))の気持ちは暗くしずんでいきました。

 「父や母が、あれほどせいこんこめて育てあげた作物なのに。百姓(ひゃくしょう)たちが朝から晩まで汗水(あせみず)ながして……。」

 ひとたび台風(たいふう)がおそってくると、青々と実(みの)った作物(さくもつ)もいっしゅんのうちに全滅(ぜんめつ)してしまうのです。それに、台風(たいふう)のあとにやってくる日でりは、さらに百姓(ひゃくしょう)たちを苦しめるのです。

 むかしから、日でりがつづき、ききんになり、うえ死にする人がたくさんでたという話は、いやというほど聞かされていました。いまでもちっともかわってないのです。

 「なんとかならないものか!なんとかしなければ・・・。」



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