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34.甘藷の効用 病院食の素材としての甘藷
 甘藷は素材のもつ軟らかさ、自然の甘さに加えて、調理がいらず、エネルギーもほどほどにあり、食物繊維も豊富であることなどの点から、子どもから老人まで安心して食することのできる自然食品である。そのために病院食の素材の一つとして、沖縄では早くから活用されていたという。特に長期の入院を余儀なくされている患者が多い病院では、治療食にも有効利用されているようだ。

 入院経験のある者ならばよく理解できると思うのだが、長期の入院生活はとかく運動不足になりがちである。運動不足は便秘になりやすい。つまりは入院患者にとって病気治療と同時に便秘が悩みのタネになってしまうケースが多いという。また、エネルギー制限の必要のある患者のメニューはかたよったものになりがちであり、そのことによって食の楽しみが奪われ、ストレスをためてしまうことにもなりかねない。このような患者を抱える病院にとっては、甘藷を使った料理を提供することによって、便秘解消に役立つと同時に、病院食のメニューにバリエーションを持たせるという効果も期待できるという訳だ。

 先に述べたように県内の病院でも早くから病院食の素材の一つとして甘藷が利用されている。一般メニューの中に甘藷料理が含まれており、患者に適宜提供されている訳だが、品種によって異なる色や形、味を上手に活用するなど、調理にもさまざまな工夫がなされているという。加えて、キントン、ンムニーといったいわば沖縄の伝統的な甘藷料理も提供されているという。また、療治食としては患者によって必要なエネルギー量や栄養が異なるので個々の病状にあわせた調理を行っているという。

 鹿児島県農政部流通園芸課発行の『さつまいも』(from I.M.O)という雑誌には、「病院食メニューに甘藷料理を取り入れ、入院患者に評判がすこぶるいい」という記事が掲載されている。それによると、「病院食として使われているさつまいも(甘藷)は1ヶ月で約60kg。この数字が多いか少ないかはわからないが、その60kgが病院食に新しい可能性を開いているのは事実であり、病院食のあり方に一石をとうじている」とある。栄養学的に見て、栄養素をバランスよく含んだ準完全食だといわれる甘藷であってみれば、病院食として用いられるのは、別段不思議なことでも驚くことでもない。その点から考えると「病院食に一石を投じた」とする記事は、今更の感は否めないが、このことを契機として甘藷のもつ病気予防効果に対する認識が深まれば、甘藷の未来が一段と開けたものになるに違いない。

                                            
むぎ社 座間味 栄議