高い志と固い信念に学ぶ
 「琉球は南海の勝地にして」から始まり、「舟楫を以て万国の津梁となし」とつ
づく、首里城正殿の鐘(万国津梁の鐘ともいう)にきざみこまれた銘文は、大交
易時代の琉球の人びとの気概をみごとに表現した漢詩文です。
 琉球国は日本の南海の地にあって、船をあらゆる国々への橋渡しとして、海
の十字路の役割を果たし、外国のこのうえない貴重な品物のより集まるところ
である、と高らかにうたいあげています。私たち一人ひとりが考えなければなら
ない国際的な役割について、ぞんぶんに語っているものが、この銘文にこめら
れた精神だといえます。銘文はまさしく、国際化時代の象徴ともいえるものです。
 来るべき2005(平成17)年は、私たち嘉手納町の生んだ偉先達・野國總管が、
中国から甘藷(愛称:野国いも)を伝えてから400 年の節目を迎える年になりま
す。
 野國總管が甘藷の伝来をとおして、私たちに何を語りかけているのでしょうか。
 小さな野国村にあって、その見すえる視線の先は、海をこえた大国・中国へむ
けられていました。百姓の身に生まれながら、その志は、豊かな社会を築くとい
う高い理想にみちていました。そして、行動は、命をかけて自らの使命を果たす
という固い信念にささえられていたのです。
 野國總管こそ、万国津梁の鐘にきざみこまれた精神を、ゆるぎない信念と行
動をとおして、私たちに示してくれた偉大な先達の一人といえるのです。
 この本は、400 年という長い歳月をとおして、野國總管が人びとの心の中にど
のようにきざみこまれ、語り伝えられてきたかを顕彰しながら、甘藷がどのよう
にして全国に広まり、人びとの暮くらしにかかわってきたかを、やさしくまとめて
あります。
 それぞれのページをとおして、私たち一人ひとりにいろいろなことを語りかけ
てくれます。耳をすまして、じっくりとその声を聞き、考えてくれることを願ってい
ます。


       野國總管甘藷伝来400 年祭実行委員会委員長・嘉手納町長 宮城篤実