3 『甘藷百珍』に見る甘藷料理のバリエーション
123 種類の甘藷料理
 『甘藷百珍』は、珍古楼主人という一風変わったペンネームをもつ人物が、1789 年に出した123 種類にもおよぶ甘藷を使った料理を、1冊にまとめた本です。

 導入以来、庶民の生活に根ざした甘藷は、主要な食糧作物として人びとに認められるようになります。それとともに、料理のバリエーションもふえて、さまざまな工夫が生まれてきます。

この本では、123 種類もの甘藷を使った料理を、「奇品」・「尋常品」・「妙品」・「絶品」の4つに分類して、収めています。

 ここでは、それぞれの品目の中から2~3品ずつ紹介します。
奇 品… 日本料理の手法を用いた、ちょっと変わったアイデア料理で、63 種類が紹介されています。
尋常品… どこの家庭でも、ごくふつうに作られた料理で、甘藷を使った一般的な家庭料理といえます。21 種類が紹介されています。
妙 品… 味も見た目も、ともにすぐれている料理とされ、「奇品」の中から、特に味の良いものとして28 種類が紹介されています。
絶 品… 究極の甘藷料理として、11 種類が紹介されています。

奇 品
御手洗いも
 生のいもをすりおろします。それにうどん粉を少し入れて、キンカンほどの大きさに蒸します。青竹のくしに5個ずつさして、砂糖じょうゆをつけながら焼きます。同じアイデアの料理として「みたらし団子」というのがあり、現在もスーパーなどで販売されています。

茶巾いも
 いもを蒸しあげて、ふるいで裏ごしし、布に適当な量を包んでねじります。鹿児島県には、古くから伝わるいも料理の一つとして「いも茶ちゃきん」というのがあります。ふかしたいもをつぶし、砂糖を少しくわえて茶巾しぼりにして仕上げます。

 戦後になって、全国各地の小学校でも、家庭科の時間にこの“ いも茶きん” の作り方を実習したようです。

 茶巾とは、茶わんをふくために使うふきんのことで、つぶしてダンゴ状にしたいもを、きつくしぼったぬれ茶巾に包みます。それをしぼり、かたちをくずさないようにそっとひろげると、茶巾のしぼったもようができあがるというわけです。


衣かけいも
生いもを適当な大きさに切ります。うどん粉を水にとき、しょうゆを少し入れます。これを切った生いもにまぶし、油で揚げます。また、いもとしょうがを細切りにして、同じように衣をつけて油で揚げます。

尋常品
藷  精
 生いもをすりおろし、水に入れてふるいでこします。その水を取り除き、底に沈んだいもを取り出し、また水を入れてこし、これを4~5回繰くり返します。取り出したいもを日に干して乾燥させ、たくわえておいて、必要なときに使います。葛粉(くずの根から取ったでんぷんを主な成分とした粉)のかわりに使います。

焼いも
 いもを丸のまま、わらの熱い灰の中にうずめるとよい。近年、焼きいもの新しい作り方が世間で行われていますが、味わいは、この「うずみ焼」にはおよびません。

いも雑炊
 生いもをおろし、ご飯をよく煮にた中へ入れます。みそ味、塩味どちらでもよく、青葉をきざんで入れるとよいでしょう。
焼きいもをふるいで裏ごしして入れてもよいでしょう。

妙 品
加須低羅いも
生いもをすりおろし、たくわえておいた藷精を少し混ぜ合わせます。それに鶏の卵と砂糖を同じ量だけくわえ、焼きナベで上下を焼きます。

羊羹いも
 藷精を0.18 リットル、あずき0.27 リットル、蜜0.54 リットルを混ぜ合わせます。裏ごしをして、ナベで煮てねりあげます。固まったところで重箱に入れて冷やして切ります。白いあずきを使うと白羊羹いもにもなります


絶 品
田楽いも
 いもをすりおろし、薄板の箱はこにいれ、箱ごと蒸します。
蒸しあがったら、適当な大きさに切って、くしにさし、みそをつけ火にあぶって焼きます。
 みそは木の芽のみそ、山椒みそ、わさびみそなどお好みのものをつけて食べます。

ふはふはいも
 生いもを水にひたし、塩をべったりぬりつけ、炭火にかけて蒸し焼きにします。塩ガマ(塩を作るカマド)からかき出した熱い塩に、いもを埋めて焼いたのは風味がとても良い。
これが、いも百余品の中でも第1品といえます。塩竈蒸しいもとよびます。