3 おいしさの秘密
焼やきいも
 甘藷は、自然の甘あまさがあり、調味料を使わないでも、焼いたり蒸したりしておいしく食べられます。いろいろな調味料を使わないとおいしくならないジャガイモとの違いも、そこにあるのです。

 沖縄では、長い間、お米の代用食として主食になった理由の一つともいえます。甘藷そのもののもつ自然の甘さこそが、おいしさの秘密といえるのです。

 甘藷が健康食品あるいは美容食品として注目されるようになって以来、さまざまな“ いも料理” が考案されるようになってきました。

ところが、自然の甘さをそこなわないで、おいしいいもの食べ方として、変わらない人気を保っているのが“ 焼きいも” なのです。暖かい沖縄でも、ミーニシ(新北風)が吹くころになると、焼きたてのアツアツホクホクの焼きいもをほおばるとき、いものおいしさがしみじみと伝わってきます。最近でこそ、屋台の焼きいも屋が少なくなってきて、「い~し焼~きいも~」という、どこかなつかしくて温かみのある声を聴くことも珍しくなってきましたが、かつては冬の風物には欠かせないものでした。


川越市ではかつては町内ごとに焼いも屋があり、町内の人びとの交流の場ともなっていました。
じっくり じんわり
 第1のポイントは、焼きあがるまでの時間です。甘藷にはでんぷんを分解して甘みのある糖分に変えるアミラーゼという酵素がふくまれています。

 この酵素は甘藷の内部温度を50 度ぐらいに上昇させると、活発に作用するようになります。したがってじっくりじんわりと長い時間をかけて加熱していく方が、甘藷の甘みが増していきます。焚き火の下に甘藷を入れてつくる焼きいもがおいしいのは、じっくりじんわりと焼けるからです。

100 年以上の伝統をほこる川越の焼きいも。今でもつぼ焼きにした焼きいもが人気を集めています。
適度な水分
 第2のポイントは、水分の加減です。短い時間で焼きあげたものは、ベチャベチャしたものとなり、時間をかけすぎると水分がなくなりパサパサしたものになってしまいます。水分が65 パーセント程度のものが一番おいしいといわれています。

熟成させる
 第3のポイントは、甘藷を掘ってすぐ焼くのではなく、2ヵ月ほど寝かせて熟成させることです。甘藷自体の甘みも増し、焼いたときにさらに甘みが増すことになります。熟成させるための特別な方法は必要ありませんが、できれば発砲スチロールか新聞紙にくるんでおくとよいでしょう。甘藷は寒さに弱いため、冷蔵庫で貯蔵するとくさってしまいます。

大学いもと中華ポテト
 焼きいもと同じように、甘藷のおいしい食べ方の一つとして、昔から人びとの間で親しまれてきたのが「大学いも」と「中華ポテト」です。いずれも日本で生まれたデザートです。

 大学いもは、乱切りにした甘藷を素揚げにして、水アメやシロップに漬けこんだもので、中までしっとりした食感が味わえるのが特長です。


毎年10 月28 日には、青木昆陽をしのぶ供養と甘藷まつりが、東京の目黒不動で行なわれています。その祭りでは大学いもが販売されています。
 大学いもと同じように、甘藷にアメをからめてつくるデザートに「中華ポテト」というのがあります。作り方は、甘藷をキツネ色に揚げるかたわらで、中華なべにアメを入れかき混ぜながらぐつぐつ煮ます。泡の粒がこまかくなったところに、揚げた甘藷を入れて手早くからめ、風を送りながら冷まします。カリカリとした食感が味わえるのが特長です。

 大学いもは、大学生がちょっとした思いつきで作ったような一品ですが、中華ポテトは、甘藷が揚がるのと、アメがキツネ色に煮詰まるタイミングを合わせないとうまくできないむずかしい料理です。同じように甘藷にアメをからめて作るデザートですが、大学いもは関東で生まれ全国に広がり、中華ポテトは関西で生まれ全国に広がったといわれています。

スイートポテト
 甘藷を使ったお菓子に、日本生まれの「スイートポテト」があります。

 スイートポテトは、甘藷を蒸して中身を取り出し、裏ごしにしてから砂糖や卵黄、生クリームといった材料を混ぜ、表面に卵黄をぬってオーブンで焼いたお菓子です。

 スイートポテトを考案したのは東京の洋菓子店の職人で、庶民の食べ物であった甘藷と洋菓子の材料・技術を取り合わせて作られました。

 今から100 年以上も前の明治の半ばごろの話です。沖縄でも、時代ははっきりしませんが、スイートポテトのように甘藷を使ったデザートが一般の家庭でもられていました。

おいしい焼きいもをつくろう
用意するのはヤカンと小石。ヤカンは使い古しのものでよい。小石をヤカンの中に敷つめ、甘藷を乗せて火にかけるだけの、とても簡単な手順です。弱火で40 分ほどで、アツアツホクホクの石焼きいもができあがります。

大学いもの起源は?
 大学いもの起源については、いろいろな説があります。
① 関東大震災後、東京大学の学生が浅草(東京都)付近で、作って売り出した。

② 関東大震災後の食生活の変化で、冬の代表的なおやつであった焼きいもが売れず、焼きいも屋が廃業し転業する中で生まれた。

③ 大正から昭和初期にかけて、大学ノートや大学目薬など、商品の頭に大学をつけるのが流はや行り、いも商品にも“ 大学” とつけた。

 いずれの説が“ 大学いも” の始まりなのか、今のところはっきりしませんが、1923(大正12)年におこった関東大震災の後、東京で生まれたのは間違いないようです。

沖縄生まれの甘藷のデザート
 甘藷を使った沖縄生まれのデザートに「ンムニー」と「ンムクジアンダギー」があります。現在のようにスナック菓子がなかったころの庶民の“ おやつ” ともいえるものでした。

 ンムニーは、適当な大きさに切った甘藷をゆで、もち米あるいはかたくり粉をまぜ、砂糖をくわえて作ったものです。

 ンムクジアンダギーは、ンムクジ(いもくず)にニラやネギを入れて混ぜて、まんじゅうぐらいの大きさにまるめたものを油で揚げて作ります。昔ながらの甘藷を使って作った沖縄の代表的なデザートともいえます。(くわしい作り方は「甘藷と料理」を読んでください。)