甘藷の種類
1 新しい品種の生まれるしくみ
新しい品種の誕生
 野國總管が甘藷を伝えてから400 年もの間には、いろいろな新しい品種が生まれ、栽培されてきました。その数は、1910 年代の初めごろ(明治の末期)には、およそ300 種ほどあって、そのうち半分以上は沖縄で生まれたものだといわれています。このような新しい品種が生み出されたかげには、甘藷を熱心に栽培していた沖縄の農家の人たちの努力があったといえます。

 それまであった品種から、後でお話しする交配や突然変異などによって新しい品種をつくり出すことを「品種改良」といいます。そして新しい品種を育てることを「育種」とよんでいます。

 沖縄県農事試験場というところから出された『県農事試験場百年史し』という本では、明治時代の沖縄で生まれた甘藷の新品種について、つぎのように記されています。

 「甘藷の最初の品種は21 品種で、明治時代は主として篤農家によって、自然結実による実生を利用して、新品種をつくり出すことに努めた」 聞きなれないことばで説明されているので、少しわかりずらいかも知れませんね。

 「篤農家」というのは、農業に熱心で、作物の栽培の研究にも心をくだいた農家のことをいいます。「自然実生」というのは、人の手をくわえないで自然の状態で実を結ぶことです。「実生」というのは種から芽が出て生長することをいいます。植物が自然の状態で実を結び、その種から芽が出て生長することを「自然実生」というのです。このような自然実生によって生まれた甘藷を利用して、沖縄からはたくさんの新しい品種が生まれています。

 甘藷が自然の状態で花をつけ、実を結び、芽を出すのは日本の中で沖縄だけです。熱帯地方生まれの甘藷は、寒い地方では、自然の状態で花をつけることはほとんどないからです。したがって本土では、自然実生を利用して新しい品種をつくることはできません。

 これとは別に、「突然変異」によって新しい品種が生まれることがあります。自らの力で花をつけ、自然に交配が行われ、花・葉・枝などが、そのもとになっている(母体という)ものとは違う形や性質をあらわす植物が生まれることがあります。このように生まれた植物をふつう「枝がわり」、むずかしいことばでは「芽条変異」とよんでいます。甘藷の場合だと、形や味ばかりだけでなく、収量も多い品種が枝がわり(芽条変異)によって生まれたりするわけです。

 このような「自然実生」や「枝がわり」によって、沖縄で生まれた新品種としては「花松川」・「花泊黒」・「花カジャー」・「花和蘭」・「花暗川」などとよばれていたものがあります。それ以外にも、第3章の「甘藷の名まえ」で取りあげた「真栄里」や「佐久川」などがあります。

人工交配による新品種
 1914(大正3)年になると、自然実生から、人工交配によって新品種が生まれるようになります。人工交配というのは、人間の手によって受粉させ、結実させることです。

 甘藷の人工交配は、沖縄県立糖業試験場国頭苗圃で初めて行われています。人工交配によって生まれた真栄里16 号、佐久川13 号、那覇屋6号、羽地台湾7号、長浜17 号、真栄里30 号などとよばれる品種は、沖縄県の奨励品種となります。

 このように、沖縄における甘藷の育種事業は重要な役割を果たしますが、沖縄が戦場になったため、1944(昭和19)年に中止されることになります。戦時中は、食糧の増産をはかることが何よりも優先されたため、少しでも多くの収量が得られる品種の育成に重きがおかれるようになります。その結果、新しい品種の育成では沖縄100 号から105 号までの品種が選ばれ、戦時中あるいは終戦直後の食糧不足を補う食料として大きな役割を果たすことになったのです。

 1947 年になると、戦争によって中断されていた試験研究も復活し、沖縄独自の品種改良も再び行われるようになります。そして、翌年の1948年から人工交配も実施されます。

 その結果、収穫量の多い品種として「ナンゴク」(九州12 号とアメリカ4号のかけ合わせ)、「ヨギムラサキ」(沖縄1号と九州12号とのかけ合わせ)などが、戦後初めて沖縄の奨励品種に選ばれ、普及することになります。その後、早わせ生多収品種(早く成熟し、収穫の多い品種)として「ウルマワセ」(ナンゴクとオキマサリとのかけ合わせ)、「ナツマサリ」(南洋いもと沖縄百号とのかけ合わせ)が沖縄奨励品種に選ばれます。
宮農36 号 備  瀬

品種別の作付けの割合
 1918(大正7)年の品種別の作付けの割合では、「真栄里」が42.5%、「佐久川」が14.4%、「長浜」が9.3%、「暗川」が7.4%、「羽地台湾」が6.3%、「坂下」が4.2%で、以上の6品種で全体の84.1%をしめています。

 そのほかに、自然実生でできた種類をふくめると、これだけで作付面積の90%をしめています。