1 野國總管を知るために | |||||||
甘藷大主(ンムウスー) | 嘉手納町字嘉手納にある 野國總管像 |
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野國總管は、北谷間切ぎりの野国村に生まれ育ち、後に中国へ渡って甘藷(いも)を持ち帰り、多くの人をききんから救くった人物として知られています。その功績によって、人びとから尊敬の意味をこめて「ンム大ウ主スー」とよばれ、「沖縄産業の恩人」のひとりとしてたたえられています。 〝野国村に生まれた〟といっても、皆さんにはピンとこないのかもしれませんね。北谷間切野国村というのは、わたしたちの嘉手納町が、お隣の北谷町とともに一つの間切(現在の市町村)を形成していた時代の村(現在の字あざ)の名まえです。 |
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皆さんも知っていると思いますが、わたしたちの住む嘉手納町は、戦後になって 北谷村から分かれて嘉手納村となりました。1948(昭和23)年のことです。ところが、嘉手納村としていっしょに戦後の復興に立ちあがるはずの多くの字が、基地として接収されることになり、基地の中に消えた村(字)となってしまいました。野国村もその一つです。ですから「野国村」という名まえだけは、現在でも残っているのですが、野國總管が生まれたころの野国村のおもかげをしのばせるものは、基地の中なので何一つ残っていません。 ンム大主として名まえはよく知られている野國總管ですが、いつ生まれ、どのような暮くらしをし、いつ亡くなったかさえわかっていません。また、なぜ中国に渡り、甘藷の苗を手に入れることができたのかも、明らかではありません。その生涯は、神秘のベールにつつまれたままで、野國總管という名まえと中国から甘藷を伝えたという以外は、ほとんどわかっていないのです。 ただ、野國總管という名まえから、次のような点が指摘されています。野國總管の「野國」という姓せいから、野国で生まれ育ったか、あるいは「野國」と関係が深い人だったということ、「總管」という名からは進貢船とかかわりのある仕事についていた人であったことがわかります。なぜなら「總管」というのは、進貢船の事務を統制(まとめること)する事務長の名称だからです。これらのことから、野國總管が野国村で生まれ育ったか、あるいは「野國」と関係の深い人で、進貢船の總管という役職についていた人だということがわかるわけです。 進貢船というのは、琉球から中国に派遣される船のことをいいますが、くわしいことは後で述のべてあります。 |
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語かたりつぐことのたいせつさ | |||||||
甘藷伝来400年祭にむけてさまざまな公募に応募し優秀賞を受賞したひとたちです。 |
このように、野國總管の生涯についてはほとんど明らかになっていません。しかし、野國總管が中国から初めて甘藷を持ち帰り、沖縄各地に広めて、多くの人をききんから救くった話が、子孫をはじめその恵ぐみをうけた人びとにより地道に語りつがれてきました。 そのように語りつがれてきたことが、後になって沖縄の歴史書や家譜(士しぞく族がもった家系の記録)の中で、總管の功績をたたえる文章となって記録されることになります。さらに、明治時代になって沖縄県になると、教科書や新聞、石碑にほった碑文などによって、それまで埋もれていた總管の功績が明らかにされることになり、広く一般の人びとに知られるようになるのです。 |
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このような経過をたどっていくと、現在の嘉手納町に生きるわたしたち一人ひとりが、語り伝えられてきた野國總管の功績を正しく理解し、つぎの時代に語りついでいくことが、いかにたいせつなことであるかがわかります。 そのためには、野國總管について書かれた歴史事実をきちんと学ばなければなりません。野國總管がなしとげた偉業から何を学ぶか、その学ぶなかからどのようなことを引きついでいくかを考えることは、とても重要な意味をもつのです。 |
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この章の中の二つの大きな柱 | |||||||
この章は、二つの大きな柱から構成されています。 一つ目の柱は、野國總管についてこれまで明らかになっている歴史事実をふまえながら、總管が生きていた時代、野国村や当時の琉球のようすについてまとめてあります。これが前半になります。わたしたちの先人たちがたどってきた歴史をなぞりながら、野國總管といっしょにタイムスリップして、1500 ~ 1600 年代の琉球を旅するつもりになって読んでください。 もう一つの柱は、近世期(薩摩藩による琉球侵攻〈1609 年〉以いこう降)の史料や近・現代(琉球が沖縄県〈1879 年〉になった以降)の文章や碑文で、野國總管の功績がどのように記述されているかを見ることです。それにより、野國總管がおのおのの時代にどのようにたたえられたかを、いっしょに考えてみたいということです。これが後半になります。 この章では、聞きなれない本の名まえやことばが数多く登とうじょう場するので、少しむずかしいかもしれません。でもとちゅうでへこたれることなく、根気づよく読みとおしてくれることを期待します。さぁ、いっしょに、野國總管と甘藷をめぐる物語について学びましょう。 |
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沖縄・日本・中国の時代のあらまし | |||||||
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