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22.甘藷の名称や種類についての概観
 甘藷にはさまざまな名称があります。甘藷の呼び名には、表記法は別にして、ウム(ンム)、からいも、りゅうきゅういも、さつまいも、蕃藷、ハンスいも、朱藷、山藷、金薯、地瓜などがあります。また、愛称としては、長崎の河内イモ、対馬の孝行芋、越後の浜芋、伊吹の坂口芋、埼玉の川越イモなどがあります。
 甘藷の品種は、古い時代から分化がすすんで、多くの種類があったと考えられています。日本には、1605年に野國總管によって中国の福建省から沖縄の北谷間切野国村(現在の嘉手納町字野国)に伝わっています。それ以来現在まで様々な品種が生まれてきました。明治の末頃には、およそ300ぐらいの品種があって、そのうちの3分の1は沖縄でうまれたと推定されています。品種をあたらしく作り出すことを品種改良といいます。品種改良のことを育種ともいいます。

 品種の大部分は、農家の人々によって、育成されてできたものです。品種のできかたには、形状や味、収量などで突然よいものが生まれ、それを種イモとして栽培してできる芽条突然変異とよばれる自然突然変異を利用する方法と自然実生とよばれる種子からでた実生苗を利用する方法があります。沖縄県では、芽条変異のほかに自然実生によっても多数の品種が生まれています。
 沖縄の在来種のなかで、花松川、花泊黒、花カジャー、花和蘭、花暗川などの花という字のつくものはその母親品種の自然実生によりできた品種であるといわれています。昭和初期頃までに栽培された沖縄の在来品種は百数十品種に達しているといわれます。大正時代には、各県の農事試験場で分系育種法という優良品種の選抜が行われました。
 沖縄県糖業試験場国頭苗圃(国頭郡羽地村)では、1914(大正3)年に日本で初めて交雑育種ともいわれる人工交配による品種改良が試みられました。
 自然実生より品種がつくられてきたのをみて、人工的に交配して種子をとっていく方法をおこなったのです。高等植物は両性花という「めしべ」と「おしべ」を一つの花のなかに同時に持っているものが数多くあります。このような同じ花の中で、おしべの花粉をめしべの柱頭につけて受粉するのを自家受粉といいます。自家受粉で受精がおこなわれると、甘藷などは生命力がおとろえてきて、ついには死滅してしまいます。そのため、甘藷は自家受粉しても受精がおこなわれないという「自家不和合性」がしくまれています。また、他家受粉でも特定の品種間では、種子がほとんどできません。甘藷には、「自家不和合性」のほかに同じグループに属する品種間の交配では、種子はできないが、グループが違えばよく実を結ぶという「交配不和合群」というのがあります。交配不和合群は現在15の群が確認されています。これをふまえて種子がとれる品種間の交配組み合わせがおこなわれ、昭和に入ってから、沖縄100号、茨城一号、護国藷、農林一号、コウケイ高系一四号、農林二号、農林三号の優良品種が育成されました。その種子はすべて沖縄より供給されたものでした。
 戦後は、農林省農事試験場指宿試験地や中国農業試験場のサツマイモ育種研究室が活躍したが、現在では九州農業試験場畑地利用部甘しょ育種研究室(宮崎県都城市横市)と農業研究センター甘しょ育種研究室(茨城県つくば市観音台)がおこなっています。
(文:宮平 友介)