4 畑の手入れ
雑草取とり
 畑に植うえ付つける苗は、2~3日ぐらいで根毛(養分や水分を吸収する働きがある)が出てきます。根毛は成長してしっかりとして根になっていきます。3~4週間もたつと、土の表面に出ている茎が勢いよくのびていきます。このころになると、雑草も多くなってくるので、それを取りのぞく作業が必要になってきます。沖縄では「ヤハタグサ」(和名:ムラサキカタバミ)や「ナジチュー」(和名:ハイキビ)とよばれる雑草が、甘藷畑によく生えます。特にナジチューは、根が地中深くまでのびるので、根ごときれいにひき抜くことはとてもむずかしく、手間のかかるやっかいな雑草です。

 雑草を取りのぞく作業は、昔も今も。一つ根気強くひき抜いていくしか手がありません。農家に取っては手間ひまのかかる大へんな作業です。

ピンクの花を咲さかせているのが「ヤハタグサ」です。
中耕と土寄せ
 草を取りのぞくときには、「中耕」とよばれる作業も行います。
中耕というのは、畑の表面の土を浅く耕して、甘藷の生長を助けるために行われる作業です。いもがつかず、茎がはう前に行われます。

 畝立植えの場合は、甘藷が成長するときに根に土をかぶせる「土寄せ」(培土ともいう)を行います。土寄せを行うのは畝立て植えの場合だけです。

 中耕は、土壌の空気や水の流れを良くし、根の呼吸や養分の吸収をうながす目的で行われます。土寄せも、同じ目的で行われる作業ですが、現在では、あまり必要のない作業だとして、おこなわれなくなったようです。

甘藷の病気
甘藷の病気として昔から知られていたものに「甘藷シュクガ病」というのがあります。シュクガは漢字では「縮芽」(芽が縮む)と書きます。この病気にかかった甘藷は葉っぱや茎がちぢれてきます。気温が25 度以上に上昇するとこの病気の症状があらわれてくるといわれています。とから列島の宝島から琉球列島、台湾までの広い範囲に見られる病気で、暖かい地方の甘藷がかか
りやすいといえます。

 この病気に強い甘藷は「ナンゴク」や「ヨギムラサキ」などとよばれている品種で、逆に弱いものは「沖縄百号」や「ナカムラサキ」とよばれている品種です。病気を防ぐには、畝のみぞの水はけを良くし、良い苗を選んで植えるのが一番良い方法だといわれています。

 そのほかに、甘藷の病気としては、いもの表面に黒色の斑点ができる「黒斑病」。葉っぱに黄色の斑点ができ、いもの皮の色が薄くなったりひび割れをおこす「斑紋モザイク病」などがあります。

青かび病にかかった甘藷 黒斑病にかかった甘藷 斑紋モザイク病にかかった甘藷の葉っぱ
甘藷の害虫
 甘藷につく害虫としては「ナカジロシタバ」や「ゾウムシ類」がよく知られています。

 ナカジロシタバの幼虫は、沖縄でよく見かける害虫の一つで、「スルルムシ」とか「夜盗虫」などとよばれています。スルルムシは一晩で甘藷の葉っぱを食いつくしてしまうといわれ、それが大量に発生すると、畑が全滅してしまうこともあったようです。戦前の新聞には、スルルムシの発生により甘藷が大きな被害をうけたというニュースがたびたび報道されています。私たちの嘉手納地域でもよく発生したようで、小さな見出しですが、被害を知らせる記事が見られます。また、第5章のカコミ記事にはスルルムシが発生し、学校も休みとなって子どもたちもその駆除にあたった話が出ています。

 ゾウムシ類のことを沖縄では〝いもの中に入る虫〟という意味で「イリムサー」あるいは「ヒームサー」とよび、ゾウムシ類の害にあった甘藷のことを「イリムサー」あるいは「イリムサーンム」とよんでいます。

 イモゾウムシは、もともとは中央アメリカに生息していた害虫でしたが、現在では、南アメリカ・太平洋諸島・台湾・琉球列島などにも分布しています。

 ゾウムシ類がいもの中に入ると、たとえゾウムシを取りのぞいてもくさくなって食べられないといわれています。イモゾウムシは、戦後、植物にくっついて沖縄に入ってきて広まったといわれています。
ナカジロシタバの幼虫 体長40 ~ 50mm アリモドキゾウムシ
 ゾウムシ類の仲間である「アリモドキゾウムシ」とよばれる害虫は、もともとから沖縄に生息していて、戦争中に沖縄のいもを食べた日本兵が「沖縄のいもはくさいね」といいながら、鼻をつまんで食べていたという話が伝えられています。ゾウムシ類は戦前から生息し、農家の人びとを悩ますやっかいな害虫であったことがわかります。

 そのほかの害虫としては「イモコガ」や「ハムシ類」などが知られています。イモコガは小さなガの仲間で、北海道から台湾・インドにまたがる広い範囲に分布しています。イモコガの幼虫は、甘藷の葉っぱを食べてしまう害虫で、沖縄では5月から9月ごろにかけて発生します。

 ハムシ類の仲間としては、甘藷の葉を穴だらけにしてしまう「ヨツモンカメノコハムシ」、ふつう「コガネムシ」ともよばれる「イモサルハムシ」が生息しています。
イモサルハムシは、昔から「カームサー」とよばれ葉に害をおよぼす害虫です。

イモゾウムシの幼虫 体長3~4mm ヨツモンカメノコハムシの幼虫 体長7~9mm

そのほかの手入れ
 茎の先を切り取る作業を沖縄では「アラジャーイ」といいます。現在でもアラジャーイとよばれる作業は行われています。茎が1尺5寸(45cm)ほどのびると、葉っぱを4、5枚ほど残して、残りの部分は切り取って家畜のエサにします。この作業をきちんと行うことによって、残った茎が太くなり、葉の付け根から新しい芽が出てきます。

芽からはたくさんのつるが出てきて、葉がよくしげってきます。その結果、いもの成長がうながされるというわけです。また、沖縄ではのびてきたつるをひっくり返す作業を、夏場にかぎって現在でも行っています。これは養分の吸収をよくするために行われるようです。

甘藷の収穫
 甘藷の収穫時期を決めるのは、ふつういもの成長ぐあいによりますが、その利用方法によっても、早く掘ったり、おそく掘ったりすることもあるようです。

 沖縄県で栽培される品種は、植付つけてから3ヵ月で収穫できるものから、じっくり時間をかけて育て、10 ヵ月ぐらいで収穫するものまであります。植え付けてから6ヵ月ほどで収穫するのが一般的ですが、栽培面積の大きい農家では、遅掘ぼり用の品種を好んで植え付けるところもあったようです。逆に栽培面積の小さい農家では、早掘ぼり用の品種を植え付けるところが多かったといわれています。


収穫も機械を使って行われるようになっています。
 遅掘り用の甘藷としては「カジャー」・「シルンムー」とよばれる品種がよく植えられ、早掘り用としては植え付けてから3ヵ月で収穫できる「比謝川1号」とよばれる品種がよく知られていました。

 本土では、種いもなどとして利用するために「貯蔵用掘り」という独特の収穫時期があります。本土でも暖かい地方(九州や四国など)では11 月ごろ、関東地方などの寒い地方では10 月の末ごろが、貯蔵用のいもを掘る時期だとされています。収穫が早すぎると、貯蔵したときの温度が高くなって、いもがダメになるといわれています。

 収穫作業は、昔は鍬やスキなどを使って行われていましたが、現在では小型の「つる刈機」や「いも掘機」などの機械を使用して行われています。第3章で見たような、いも掘りに毎日でかけるといった農家の生活風景も大きく変わってしまったようです。

甘藷の貯蔵
 くり返しお話してきたように、沖縄では一年中、甘藷の栽培ができます。したがって、栽培のためにいもを保存する必要はありません。ところが本土では、苗どこ床をつくるまでの間、いもを貯蔵しておかなくてはなりません。沖縄のように、季節を問わないで、必要なときにいつでもいもづるを手に入れることができないからです。そのため、農家の人たちは、いもを貯蔵しておくために、いろいろな工夫をあみ出しています。

 九州や四国地方では、畑のすみにいもを貯蔵するために穴を掘って、いもをくさらせずに寒い冬を越す工夫をしたようです。穴はいもつぼとよばれ、丸い形から長方形のものまで地方によって違いはあったようです。いもつぼの中にいもを入れて杉の生葉をかけ、その上に山形になるように土を盛りあげて、さらに麦ワラをかけます。杉の生葉はいもがくさるのを防ぐためで、土を盛りあげるのは雨水などがいもつぼに入らないための工夫です。それ以外にも、小さな横穴をいっぱいつくり、小分けにしていもを貯蔵する方法もとられたようです。その方がくさるいもが少なくてすむということです。

 九州や四国よりも気温の低くなる関東あたりでは、作業小屋の土間の地下に「室穴」とよばれる穴を掘り、いもをワラやもみがらなどで包むように貯蔵したようです。それでも冬を越すのはむずかしいといいます。埼玉県の大宮市役所が発行した『大宮市史』という本の中には、「深さ2m あまりの縦穴を掘り、さらに底に横穴を掘って〝室〟(むろ)をつくって保存した」と記されています。甘藷の保存に、いかに農家の人たちが苦心したかがわかります。これを見ただけでも、沖縄県の気候がいかに甘藷の栽培に適し、恵まれているかがわかります。

 このように甘藷の貯蔵には、心をくばり、苦心してきた本土でも、現在は、電気の熱などを利用した「キュアリング貯蔵」や「室内貯蔵」という方法が用いられるようになっています。

イモゾウムシはハワイから?
 1950 年7月24 日付の『ウルマ新報』という新聞に「イモゾウムシ」についての記事が見られます。
 「ハワイはイモゾウ虫の発生が甚だしく、その対策としては苗の消毒以外にないので困こまっている。戦前沖縄になかったこの病害虫が戦後沖縄に現われているのは不思議だ。これは多分、ハワイに行った沖縄人捕虜が持ち帰ったのではないだろうか…」という内容になっています。

 イモゾウムシはハワイから入ってきた害虫だったのでしょうか。

いもの加工貯蔵
 1949 年11 月1日付の『沖縄タイムス』に、甘藷を加工品にして貯蔵するようによびかける記事が掲載されています。「農務課、農家に呼びかく」と題された記事は、「甘藷は毎年冬期(11・12・1月)は豊かで、春先(3・4・5月)は不足がちであるが、いまのうちに澱粉製造、切り干し製造、その他の加工品として貯蔵し、春先のいも不足に備えよう」と、市町村の農業組合をとおして農家に指導するようよびかけています。ところが、農家では農務課のよびかけにもかかわらず、お金に換かえるために、安い値段で生のままで処分していたようです。